マドリッドに着いて、しばらくしてから気がついた事がある。
………バックに入ってるはずのものが無いのだ。
それも乏しい持ち物の中ではまだマシな、金目のものが(笑)
男性用腕時計。mont-bellのレインウェア。それから練習道具。(後にColemanの寝袋もなくなる)
バックパックなどって簡単に開けられてしまうし、モスクワで無くなった物はまず出てこないと空港で言われた。
雨具はお父さんの仕事道具だし、時計は年末に亡くなってしまったばかりのおじいさんの形見だった。すぐに親の顔が思い浮かび、まず申し訳なく思う。「悲しむかな?」
格安エアラインなんて無意味なものだ!こうなるとちっとも格安ではない。
だけれど単純に「無くなった」ことに関しては、実は大して落胆もしなかったし腹も立たなかった。
どこか責任を押し付けどころを見つけた時に、初めて腹って立ってくると思うのだが、それがまるで、ザルを通過する水のように存在が無かったから。神経の向きどころがそれどころじゃなかったと言う方が正しかったのだと思う。
さて、外に出たものの、どっちへ行こうか迷っていた。
立ち止まった場所にあるものが、何だかが分からない。公衆電話なのか?キャッシュディスペンサーなのか?
すると近くにいたバックパックをしょったお兄さん(たぶん自分よりずっと若いんだろうけど)が、近づいてきてスペイン語で話しかけてきた。
察するに「ドコへ行きたいの?」に思う。
「ごめんなさい、スペイン語しゃべれないんです(カタコト英語)」
この時点でお互い苦笑いの空気が流れる。
でもバックパック兄さんはあきらめずに続けてくれる。
「チャマルティン駅とか?それともアートチャ?」
地名を出してくれたのはありがたかった。そこはマドリッドの中で、次の場所に移動する駅名だったのだ。
「私、●●行きのバスに乗りたいんです。(カタコト英語)」
すると、すかさずバス乗り場までの道を教えてくれたのだが、もちろんそれは聞き取る事が出来ない!!
ハテナ?が10個くらい浮かぶ顔を見かねたのか、
「僕についてきて」
と、荷物を持って歩き出した。
この時点で、もしかしたら騙されるのかも!と言う思いが、一瞬アタマをかすめた。
実際にスペインに留学している友人に、スペインの特に都市部の治安は世界の有名都市の中ではワーストテンに入るほどの悪さだ、と聞いていたからだ。
でも付いて行く。
難なくバスストップに着いた。そして
「ここで待ってればいいんだよ!バスが来るかは分からないけどね。
それじゃあ!
最後に言わせてよ、ようこそスペインへ!!」
え???
「グラシアス!」声を張って、ちゃんと言えた。が、ハテナマークは10個くらい追加され、逆に力が抜けてしまった。こんなんでいいの!!?
年齢に合った旅。
それがどう言う感覚なのかは小説の中でしか知らないけれど、それって旅に慣れてきた後に、初めて判断して、オプションを選んでいけることなのかものかも知れないと思う。
辺りはもう真っ暗。150km/hくらい出すクレイジーな車に乗って、その日の宿を目指す。

* Nikon D40x + NIKKOR 50mm f/1.8D CPL